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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1496号 判決

主文

原判決中有罪の部分を破棄し、事件を名古屋高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人岡崎源一上告趣意第一点について。

記録を精査すると、原審が、判示第一の事実を認定するに当り、第一審(津地方裁判所)第一回及び第三回公判調書中の被告人の判示同旨の供述記載を、原判決挙示の他の証拠と共に綜合認定の資料となしていることは論旨の指摘するとおりである。しかるに判示第三回公判調書の記載によれば第一審裁判所(判事生貝隆)は右公判において、従前の審理は裁判所の構成が不適法であったとの理由で検察官の公訴事実の陳述をはじめ、その審理全部を最初から遣り直していることが認められる。そしてその第一回昭和二三年一月一二日及び第二回(同月一九日)公判は、判事都築一馬が地方裁判所の一人制の裁判官として裁判所を構成して審理したものであるが、職権を以て調査するに右判事は昭和二三年二月四日はじめて津地方裁判所判事に補せられたものであり、右第一、二回の公判当時においては亀山簡易裁判所判事に過ぎなかったのであるから、同判事は当時津地方裁判所に繋属していた本件を審判する権限を有しなかったものであること勿論であり、従って、同判事の審理した第一、二回公判手続は不適法でありその効力なきものといわなければならない。旧刑訴一二条には「訴訟手続ハ管轄違ノ理由二因リ其ノ効力ヲ失ハス」と規定されているのであるが、この規定は本来裁判権を有する裁判所間に事件を分配することを目的とする事物及び土地の管轄に関する規定の違背があっても、唯それだけの事由では訴訟手続を無効たらしめるものでないことを明らかにしたに過ぎないものであって、管轄権ある裁判所を構成する裁判官その人が、その裁判所に繋属する事件を審判する権限のなかったような場合にまで拡張解釈して準用すべきものではないのである。されば原審が所論第一回公判調書中の被告人の供述記載を他の証拠と共に不可分的に綜合認定の資料としたことは到底違法の譏を免れ得ないのである。しかも前示第一回及び第三回公判調書の記載を精査するに、原判決判示第一の横領金額については、第一回公判調書によれば被告人は金二九五五六円七〇銭と供述しているのに、第三回公判調書によればこれを金二九〇五六円七〇銭に過ぎないと自供し第一審裁判所(判事生貝隆)は第三回公判調書の記載を証拠として、その横領金額を金二九〇五六円七〇銭と認定したのに対し、原審は第一審第一回公判調書記載の金二九五五六円七〇銭と認定しているのである。されば原審は無効である右第一回公判調書の記載を事実認定上重要な資料となしたものといわざるを得ない。そして原審は判示第一及び第二の業務上横領の所為を連続犯と認め、これを一罪として処断しているのであるから、前示採証上の違法は原判決の主文中有罪の宣告をなした部分全部に影響すること勿論であり、この点において原判決は全部破棄を免れ得ない。論旨は理由がある。

よって爾余の上告趣意に対する説明を省略し旧刑訴四四七条四四八条ノ二、一項に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔)

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